森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

福原愛と3つのエッジボール

 

 

 リオデジャネイロオリンピック卓球女子団体準決勝、日本はドイツに2勝3敗で敗れた。どちらが勝ってもおかしくない試合展開だった。しかし、この試合で、エッジ(卓球台の角)はドイツに味方した。
 2勝2敗で迎えた第5試合。勝敗の行方は5番手福原愛の最終ゲームにまで持ち越された。その最終ゲーム、福原はあと2点で決勝進出というところまで来た。ところが、リードを守り切れずに逆転を許し、ついにマッチポイントを逆に奪われてしまう。そして、激しいラリーの末に相手選手が返したレシーブはエッジにわずかに当たってポイントとなった。
 幼い頃から泣きながらラケットを振り続けるのが福原愛、愛ちゃんだった。だが、試合後の福原は涙を見せなかった。
「わたしはキャプテンだから。美誠は私よりもっとつらい。もし私が泣いたら、彼女がもっとつらくなってしまう。だから私は唇を噛んででも、泣くわけにいかなかった」

 と、福原は後輩の伊藤美誠を思いやっていた。
 この女子団体準決勝の5日前に行われた卓球女子シングルス3位決定戦で福原は北朝鮮の選手に敗れていたが、この試合でも最後のポイントを決めたのは相手選手のエッジボールだった。

「相手が最後の一球は、ついていたかなと思うけれど、いきなりあのエッジで終わったわけではなくて、その前にたくさんの積み重ねがあった。序盤にもっとリードできたら良かったと思う」
 試合後にそう答えた福原は次の団体戦に頭を切り換えていたのかもしれない。

 ところが、その団体準決勝でも福原はエッジに嫌われた。
 そして、迎えた女子団体3位決定戦、相手はシンガポール。この試合が福原たちにとってのリオデジャネイロオリンピック最後の試合となる。1勝1敗で迎えた3番手の福原愛と伊藤美誠のダブルスコンビは、第1ゲームを落とした後、第2ゲームでゲームポイントを握った。このゲームを取れば流れを変えられる。

 伊藤が返したボールはエッジをかすめて得点を決め、ゲームカウントをタイに戻した。この後二人は続く第3、第4ゲームを連取し、2勝1敗とした。そして4番手伊藤が相手エースを破り、見事銅メダルを決めたのだ。
「相手のそういうボールがすごく多かったけど、最後は返ってきた。神様は、いるんだなと思いました」

 オリンピックの最後の試合でついにエッジは福原に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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